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名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)1529号 判決 1997年1月31日

原告

登健雄

被告

佐藤孝行

主文

一  被告は、原告に対し、金八四万〇〇一二円及びこれに対する平成六年一二月二四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金一〇〇〇万三〇〇〇円及びこれに対する平成六年一二月二四日(本件不法行為の日)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―不法行為(民法七〇九条)に基づく損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権。】

第二事案の概要

本件は、道路の歩道側の車道部分に駐車中であつた原告運転の普通乗用自動車(原告は降車中)に、被告運転の普通貨物自動車が玉突き追突した事故につき、原告が、民法七〇九条に基づき、被告に対して、原告の自動車の買替え差額、代車料等の損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

原告は、次のような交通事故に遭遇した(以下、右事故を「本件事故」という。)。

(一) 日時 平成六年一二月二四日午前二時〇五分ころ

(二) 場所 名古屋市港区当知一丁目一二〇番地先の道路(以下「本件道路又は本件事故現場」という。)

(三) 被害車両 普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

右運転者 原告

(四) 加害車両 普通貨物自動車(以下「被告車」という。)

右運転者 被告

(五) 事故態様 被告が忘年会帰りに酒気を帯びて、居眠り運転をするという過失により、片側二車線の左車線の歩道側に沿つて駐車中の訴外中山義行こと全相元の自動車後部へ原告車を突つ込み破損させたうえ、その直前に駐車してあつた被告車後部に玉突き追突し、被告車を破損させた。

2  責任原因

被告は、被告車を運転するにつき、前方の安全確認の注意義務違反という過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、これによつて生じた原告の損害を賠償する義務がある。

3  原告の損害の一部填補(損益相殺)

被告の加入する保険会社は、原告の本件損害の一部として、その修理代として金二二六万七七五一円、代車料として金五八万〇一〇〇円の合計金二八四万七八五一円を、それぞれ修理業者及びレンタカー会社に支払つた。(乙第八号証、乙第九号証参照)

二  原告の主張

1  原告の損害について

(一) 原告車の損壊による損害 金四八六万三〇〇〇円

(1) 買替え差額の請求(金四八六万三〇〇〇円)

ⅰ 平成六年九月一七日の原告車の購入価格 金六六一万五〇〇〇円

ⅱ 本件事故後の原告車の価値 金一七五万二〇〇〇円

(計算式) ⅰ-ⅱ=四八六万三〇〇〇円

(2) 原告車の価値が減価したことによる損害 (金五四五万四七五一円)

ⅲ 平成八年一月一六日現在の原告車の評価額

(修理後) 金二四二万八〇〇〇円

ⅳ 修理代 金二二六万七七五一円

ⅴ 平成七年二月から平成八年一月までの原告車の使用による減価 金一〇〇万円

(計算式) ⅰ-(ⅲ+ⅴ)+ⅳ=五四五万四七五一円

(二) 原告車を使用できなかつたことによる損害 金三六四万円

(1) 代車料(金三六〇万円)

三万円×一二〇日分

(2) 携帯電話代(金四万円)

レンタル料・基本料一か月一万円×四か月

(三) 慰謝料(無形の損害) 金五〇万円

原告は、本件被害を受けたことにより、警察、保険会社等への対応、車の修理、証拠の保全・収集、弁護士の依頼などに神経をすり減らし、調査費用を費やし、貴重かつ多大な時間をさくことを余儀なくされた。これらの無形の損害は金五〇万円を下らない。

(四) 弁護士費用 金一〇〇万円

2  事故態様について

片側二車線の車道左側に車両が駐車していることは、そこが駐車禁止区域であつたとしても日常茶飯事のことであり、止まつている原告車に追突したのはひとえに被告の酒気帯び及び居眠り運転という重大な過失によるものであるから、原告に過失はない。

三  被告の主張

1  事故態様について(過失相殺の主張)

原告と訴外中山義行こと全相元(以下「訴外人」という。)は、本件事故現場の道路が駐車禁止の規制がなされている道路であり、かつ、深夜であるにもかかわらず、片側二車線の車道の左車線に前後に並んで車両を駐車させていた。

本件事故発生日は平成六年一二月二四日であり、時期的には忘年会等の多いころであり、しかも本件事故の発生時刻は午前二時〇五分ころというのであるから、このような時間帯には酒気帯び運転をする者があることは予想されるところであり、このようなときに、尾灯等も付けずに駐車禁止の道路の左側車線に駐車させていた原告にも本件事故につき過失があるというべきであり、その原告の過失割合は、少なくとも二割は認められる。

2  原告の損害について

(一) 原告車の損壊による損害について

原告は、買替え差額の請求を前提として右請求をしているが、本件においては現実に原告車を修理しているのであるから、右請求は不当である。したがつて、原告車の損壊による損害は、その修理費用の金二二六万七七五一円である。

そして、仮にこれに付加して原告の損害が認められるとしても、右の修理費の二割程度の格落ち損が考えられるのみである。

(二) 代車料について

被告が現実に支払つた金五八万〇一〇〇円が相当である。

四  本件の争点

被告は、まず本件事故の態様を争い、次に、原告主張の各損害額をそれぞれ争い、さらに、本件事故の責任は原告にもあるとして、前記のとおりの過失相殺を主張した。

第三争点に対する判断

一  原告の損害について

1  原告車の損壊による損害(請求額金四八六万三〇〇〇円)

認容額 合計金二八六万七七五一円

(一) 原告は、本件事故による原告車の損壊による損害について、これを(1)買替え差額の請求あるいは(2)原告車の価値が減価したことによる損害として請求しているが、右のような請求ができるのは、被害車両が事故によつて、物理的又は経済的に修理不能と認められる状態になつたときのほか、被害車両の所有者においてその買い替えをすることが社会通念上相当と認められるとき、すなわち、フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷が生じたことが客観的に認められて、被害車両を買い替えたことが社会通念上相当と認められる事情がある場合に限られるが、本件の原告車については、本件全証拠によるも、右事情を認めるに足りる証拠はない。

(なお、右の事情は、弁論の全趣旨によれば、原告は、原告車を現実に修理して、引き続いて原告車を使用している事実からも窺えるところである。)

したがって、原告の(1)買替え差額の請求あるいは(2)原告車の価値が減価したことによる損害として請求の各主張は、いずれもその理由がないからこれらを認めることはできないので、以下においては、本件事故による原告車の損壊による損害については、原告車の修理を前提とした損害の限度でこれを認めることとする。

(二) 車両修理代金について 認容額 金二二六万七七五一円

争いのない事実及び証拠(甲第二号証、甲第五号証、甲第一七号証、甲第一九号証、乙第九号証、弁論の全趣旨)によれば、原告車は、本件事故により損壊したことから、その修理をしなければならなくなり、本件事故と相当因果関係を有する原告車の修理費用は、金二二六万七七五一円の限度で認めるのが相当である。

(三) 格落ち損について 認容額 金六〇万円

争いのない事実及び証拠(甲第三号証の一ないし四、甲第一八号証の一、乙第五号証、弁論の全趣旨)によれば、原告車は、本件事故の約三か月前の平成六年九月一七日に原告が約六六一万円で購入した車であつたことが認められ、この事実を前提にすると、本件事故と相当因果関係を有する原告車の修理にともなういわゆる格落ち損(評価損)については、金六〇万円の限度で認めるのが相当である。

2  代車料について(請求額金三六四万円)

認容額 金九〇万円

証拠(乙第七号証、乙第八号証、弁論の全趣旨)によれば、本件事故と相当因果関係を有する原告の代車料相当の損害は、金九〇万円(一日当たり金一万五〇〇〇円で六〇日分)であると認めるのが相当である。

3  携帯電話代(請求額金四万円)

認容額 金三万円

前掲の各証拠によれば、本件事故と相当因果関係を有する原告の原告車に設置されていた携帯電話のレンタル料・基本料相当の損害は、金三万円であると認めるのが相当である。

4  無形の損害について(請求額金五〇万円)

認容額 〇円

原告の本件事故による損害については、右1ないし3の物的損害の賠償で十分であつて、その余の原告主張の精神的損害等を認めるべき特別の事情は認められない。

よつて、右無形の損害の主張は理由がない。

二  本件事故の態様及び過失相殺について

1  前記の争いのない事実に、証拠(甲第一号証、弁論の全趣旨)を総合すると、本件事故の態様は前記の争いのない事実のとおりであり、本件事故現場の状況としては、本件事故現場の本件道路は駐車禁止の規制がなされている道路であつたこと、そして、原告は、深夜に右の場所に尾灯等も付けずに本件道路の左側車線に原告車を駐車させていたことが認められる。

2  そうすると、本件事故については、右の点において原告にも過失があるというべきであり、その原告の過失が本件事故に寄与していることは明らかであり、右の事情と弁論の全趣旨に徴すると、本件事故における原告車の過失割合については、少なくとも五分はあるものと認めるのが相当である。

三  具体的損害額について

以上によれば、前記一で認定のとおり、本件で原告が被告に対して請求しうる損害賠償の総損害額は合計金三七九万七七五一円となり、前記二の過失割合による過失相殺をすれば、原告の具体的な損害賠償請求権は金三六〇万七八六三円(円未満切り捨て)となるところ、原告は、損害の一部填補として、合計金二八四万七八五一円の支払を受けた(争いのない事実の3)のでこれらを損益相殺すると、被告が原告に賠償すべき賠償額は金七六万〇〇一二円となる。

四  弁護士費用について(請求額金一〇〇万円)

認容額 金八万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、金八万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、金八四万〇〇一二円及びこれに対する本件不法行為の日である平成六年一二月二四日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安間雅夫)

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